G-STEPプロジェクトができたわけ

そもそも、IVGとは? 

幹細胞などから精子や卵子といった生殖細胞ができる過程を、
シャーレ(実験用の皿)の中で再現する試みです。
英語では、in vitro gametogenesis、略してIVGと呼ばれます。

幹細胞は、機能を持った細胞に分化する能力をもつ細胞です。
幹細胞にも様々なものがありますが、例えばそのうちの一つ・iPS細胞を用いたIVGの場合、
皮膚などの体細胞に対して実験的操作や培養を行ってiPS細胞を作成し、
またその後さらに別の操作や培養を行うことで、精子や卵子を作成します。

動物を用いた研究の歴史は長く、
マウスでは精子と卵子がそれぞれ2011年、2012年に作製に成功したという発表がなされてきました。
近年はヒトでも研究が進められています。
また、2023年には、マウスにおいてオスのiPS細胞から、卵子を作製することに成功した論文が発表されています。

次世代を作る細胞「生殖細胞」の不思議に迫るIVG研究

生命の源である卵子や精子ができる過程やそのメカニズムは、
未だに人類にとって未解明の領域です。
これらの細胞は通常は体内で、長期にわたり極めて複雑な過程で形成されるため、
実験室での再現が難しいとされてきました。

この謎を解き明かそうとするのが、IVG研究です。
IVGの基礎研究が進展することで、
生殖細胞の発生メカニズムや、その過程で起こる異常についての理解が進むと期待されます。
また、そのように遺伝子の発現や細胞のふるまいなどが理解されていくと、
生命現象への理解が進み、
不妊の仕組みの解明、生殖補助医療に役立つ知見が得られることも期待されます。

IVG研究が持つ、様々な応用の可能性

現在は、IVGに関する技術は確立しておらず、
安定して質の高い精子や卵子を作成することはヒト・他の動物ともにできません。
しかし、将来的にそれらが可能になった場合には、
以下のような分野で応用できると想定されます。

応用方法の例:

  • 絶滅危惧種の保存
  • 畜産分野への応用
  • 不妊治療への応用

そう、仮にヒトで安全に精子・卵子が作れるようになった場合には、
不妊治療などの医療として使う、という可能性も考えられます。
まだまだ先のこと……と思いきや、技術発展のスピードははやく、
今後の研究の進み具合は思うより早いかもしれません。

IVG研究に関する倫理的・法的・社会的課題(ELSI)

新しい技術であるがゆえに、その研究の実施や応用を進めるに当たっては、
社会の中でこの研究がどのように位置づけられるべきか、
広く多様な視点から検討することが不可欠です。

例えば、ここまで読んでいて、以下のような疑問が生まれた方もいるかもしれません。

  • 多能性幹細胞という人工的な手法を用いて、果たして人間を誕生させてよいのか?
  • もし将来、医療としての応用が可能になると、何をどこまで進めるのか?
  • 研究者による「暴走」にならず、適切に研究が進められるのか? 
    つまり、社会の中で、どのような研究の進め方なら信頼できて、そのためにはどんなルールが必要なのか?

これらのような、科学技術の進め方に関する問いを、「倫理的・法的・社会的課題(ELSI)」とよびます。

G-STEPプロジェクトが目指すこと

本プロジェクトでは、上記のような様々な倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について、
多様な人とともに考え、必要なポリシーやルール(規制など)を提案することを目指します。

その方法として、これまで議論されてきたELSIの整理や、
患者・市民へのインタビューやwebアンケート調査(Q-sortという手法を用います)での
意見抽出・論点整理などを行います。
得られた結果を元にELSIへの必要な対応策をまとめ、ルール等に関する提言を行う予定です。

患者・市民、最先端を走る科学者、生殖補助医療の専門家。みんなで一緒に考える

一連の研究は、患者・市民であるパートナーの意見を取り入れながら、
ともに進めていくことを目指します。
具体的には、市民パネルを立ち上げ、
研究の進め方について定期的に互いに意見交換をしながら進めます。
また、研究進捗に関するシンポジウムや、公開セミナーの開催も予定しており、
こうした場での情報共有や意見交換も目指します。

関わる研究者も多様です。
IVG研究を世界でもリードする研究者(科学者)や、生殖補助医療の専門家(産婦人科医)、
倫理的・法的・社会的課題(ELSI)などを専門とする研究者などが集まって、研究体制を作っています。